デザインにとってマーケティングとは何か
デザインとマーケティングの
関係性について
マーケティングからしっかりとデザインを導き出すことが大事だとわかっていても、実際には、見た目の「デザイン」は重要だし、多分にデザイナーの感性やインスピレーションが占める割合が大きいのではということで、なんとなくデザインはマーケティングでつくるものではないのではと思っている方も多いのではないでしょうか。
そこで、日本デザイナー学院の卒業生で、デザイナー出身で2020年の1月にマーケティングの本を出版されたばかりの下山久美子さんに取材を依頼しました。
デザイナーと本の執筆ということに少し違和感を感じましたが、下山さんにとってはとても自然な流れだったようです。
執筆でご苦労されたことは後編でおとどけすることにして、まず、デザイナー視点から見たデザインとマーケティングの関係性についてお話を伺いました。
◇ 前編 ◇
マーケティング力って必要?
下山さんにとってデザイナー時代にマーケティングを意識するきっかけになった仕事があったのでしょうか?
下山さん
実は、デザイナーの仕事をしているうちにマーケティングの必要性を感じるようになったわけではありません。制作会社のデザイン案件は、クライアントの指示通り作るような業務も多いですからね。
私がマーケティング基礎理論を学んだのは、日本デザイナー学院の学生時代です。
そうだったんですか。
私が日本デザイナー学院の学生時代はマーケティングという言葉の意味すら知りませんでした。
下山さん
当時、学校が推奨する労働省認定の『広告企画制作スペシャリスト』という資格があり、その取得の際、集中的に独学で勉強しました。(難しすぎて合格者が少ないという理由で数年で無くなってしまいましたが )
それでは、下山さんは数少ない合格者のお一人ということで優秀だったんですね。
その『広告企画制作スペシャリスト』の資格を取るための科目の中でマーケティングの勉強をされたということで、日本デザイナー学院の授業ではなかったということでしょうか。
下山さん
通常の授業に『マーケティング』という科目はありませんでしたが、ビジネスとしてのデザインとは何かということを先生方が日頃、意図的に教えてくださってました。この学校の授業は、デザインやレイアウトの方法を教えるだけではなかったコト、社会に出てから本当に役立ったと感謝することが多々ありました。
学校が推奨すること、先生方の指導方針、下山さんご自身のお考えなどが、うまくリンクしていたことで、マーケティングという考え方を学生時代に身につけることができて、そして、そのことが社会に出てからも実践できたいうことでしょうか。
デザインとマーケティング、どちらも一人歩きをすることなく、両輪でずっとされてきたことが、マーケティングの本を出版されたことに繋がっているように感じます。
ところで、下山さんが思う優良デザイナーってどんな方ですか?
下山さん
これは、チーフデザイナー時代、新人教育をする際によく言ってた持論ですが、『デザイナーは、アーチストではない。デザイナーは、ビジネスマンであるべき。』と。
厳しいですね。
でも、名刺にグラフィックデザイナーというクリエイティブな肩書きが入っているだけで
数字よりも感性が大事‥‥みたいな感覚になるんですよね。
下山さん
厳しいですか?(笑)
でも、商業デザイナーの醍醐味でもありますよ。
アーチストは、表現者ですから、自分の感性で好きなものを描きます。でもデザイナーは、顧客から対価をもらって、顧客の望むものをカタチにします。デザイナーは自分の作りたい物を作る仕事ではないのです。顧客は、お金を出すからには、何かしらの効果・成果を求めています。
・売上を伸ばしたい
・新しい商品を消費者に認知させたい
・既存商品を別ターゲット層に売り込みたい
‥‥ など顧客の望み・目的を叶えるのが、商業デザイナーの仕事であり、キレイなデザインを作ることではないのです。
でも、自分の感性や個性を入れてはいけないということではないです。顧客の要望を叶えることを最優先としつつも、そこに自分らしい表現をどう織りまぜるかが、商業デザイナーの腕の見せ所ですね。
顧客あってのデザイン、ここは絶対にブレてはいけないところですね。顧客の望みを叶えることで顧客はデザイナーを評価してくれるということですか。デザインそのものだけでは決して評価されないんですね。
それでは、デザインの現場でマーケティング力の重要性というのはどんなことになってくるのでしょうか?
下山さん
クライアントの目的を叶えるデザインをするためには、マーケティングに基づいたロジカルさが必要です。
ターゲットはどんな人たちか?
どうアプローチしたら商品コンセプトがその人達に伝わるか?
棚に並ぶ競合商品とは、どう差別化させるのか?
↓↓↓
そのターゲットに魅力的に伝わる、配色、イメージはどんなものか?どんなコピーやインパクトで構成したらいいか?
これらはクライアントが考え提示してくることもあれば、クライアントも答えを持ってない場合もあります。案件によっては、デザイナーが市場リサーチし、裏づけされたデザイン提案をすることが必要になります。
決して感性だけではなく、デザイナー自身がマーケティングに基づいたデザインをロジカルに導き出せるようになれることが必要なんですね。
下山さん
またクライアントが提示してきたとしても、マーケティング力がないと、商品コンセプトや指示の意図を正しく読み取ることができず、出来上がったデザインがズレていて、何度もダメ出しが出ることも。。。
顧客の目的を達成するデザインをつくるには、マーケティング力は必要不可欠です。
これができないと、DTPオペレーター的なデザイナーになってしまうでしょう。
なるほど、デザイナーとしてクライアントの望みを叶えるにはまず、クライアントの望みを正確に理解できないと始まらないということですね。
下山さんは学生時代にマーケティングを独学で勉強され、社会に出てから実践を積まれてコンサルティングもされていらっしゃいます。
お話をお伺いする中で、マーケティングは難しいというものではなく、そのロジックを身につければデザインにとってとても頼れる関係になれるのかなという感じがしました。
NEXT
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◇ 後編 ◇
本を出版されたきっかけ
お楽しみに !!